デイヴィッド・ライト著(大谷 誠 訳)『ダウン症の歴史』 書籍紹介/大谷 誠(同志社大学)

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『ダウン症の歴史』 (明石書店・2015年) 価格 ¥4,104(本体¥3,800)
デイヴィッド・ライト【著】/大谷 誠【訳】/日本ダウン症協会【協力】

書籍紹介 /大谷 誠(同志社大学 人文科学研究所 嘱託研究員)

 今から150年ほど前のイギリスで、ダウン症の医学的分類がジョン・ラングドン・ダウン医師によって行われました。知的障がいの医学的分類が確立され始めたのもこの頃からでした。医学者によって、ダウン症は知的障がいの一部類に入れられつつ、その症状の原因と治療の方法が模索され始めました。20世紀の半ばには、フランスの医学者ジェローム・ルジューンによってダウン症の原因が解明されました。また1970年代には、ダウン症の合併症である先天性心臓疾患の手術が可能になったこともあり、ダウン症のある人々の平均寿命が延び始めました。

 

 19世紀半ば以降、医学者は、知的障がいの存在を世間一般に広めようと働きかけました。彼らは、活字媒体などに、ダウン症など、知的障がいの特徴について詳細に伝えようとしました。しかし、医学者が社会への浸透を試みた情報の中には、「知的障がい者の精神的、身体的欠陥性」を強調したものも含まれていました。20世紀初頭の欧米などで、このような医学的説明から影響を受けた政治家や作家など、社会のエリート層は、「知的障がい者は社会のお荷物であるので、彼らの繁殖を防ぐ対策が必要である」と主張しました。実際、ヒトラー政権下のドイツでは、知的障がいのある人々への断種や安楽死を行う政策が実施されています。

 

 上記のような、医学が社会にもたらすプラスとマイナスの面を私たちはどのように考えればよいのでしょうか。なかなか明快な答えを見つけることは難しいでしょう。しかし、できる限り歴史上に起こった様々な事象に目を配ることで、未来に向けた医学と社会とのより良き関係性を模索することが大切ではないでしょうか。私がお薦めの『ダウン症の歴史』では、ダウン症や知的障がいを通じての、歴史の中の医学と社会との関係性についての様々な事例(上記した内容を含みます)が書かれています。また、本書の対象とする地域は、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカなど、欧米諸国だけでなく、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本など、多地域に渡っています。カナダ出身で精神医学史研究の第一人者の一人と高い評価を受けているデイヴィッド・ライトは、このテーマへの確かな説明を行っています。

 

 

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