大阪での「私宅監置と日本の精神医療史」展を終えて
/橋本 明(愛知県立大学)

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大阪人権博物館

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 2017年9月6日から10月7日までの1ヶ月あまり、大阪市浪速区にある大阪人権博物館(リバティおおさか)で、「歴史解説と写真展 精神医療の歴史と私宅監置 ―過去との対話から、現在と未来へのメッセージ―」を開催した。2014年11月にソウルで開いた第1回目の「精神医療ミュージアム移動展示プロジェクト」から数えて9回目になる。これまでの展示会場のなかには、病院や施設の一角など、展示スペースらしくないところもあった。「それが面白い!」ということもあるのだが、今回のような「ちゃんとした」博物館での開催は初めてである。

 

【参考】ブログ記事『東京都立松沢病院での「私宅監置と日本の精神医療史」展-企画・展示者としての舞台裏からの報告-』橋本 明(2017年5月12日)

 

 実は、これより半年くらい前の2017年3月に京都の「ひと・まち交流館」で開催した展示会を一区切りとして、そろそろ「精神医療ミュージアム移動展示プロジェクト」も当面休止しようかとネガティブに考えていた。最大のスポンサーだった3年間の科研費(挑戦的萌芽研究)の予算が2017年3月末をもって終ることもあったし、何よりマンネリズムに陥ることを恐れていた。だが、京都の展示会を訪れてくれた当事者団体・エンパワメントスペース大阪のモリコさんから展示会開催のオファーがあって、その気持ちも吹き飛んだ。そのモリコさんのコネクションで、大阪人権博物館の展示が実現したのである。

 この博物館の常設展示コーナーには、文字通り「人権」に関わるさまざまなジャンルの、多数のパネル、写真や物品が並べられている。ただ、精神障害関係の展示はほとんどなく、博物館にとっては今回の私宅監置の特別展が「手薄かった領域」を補うといった意義があるようだった。また、来年(2018年)が、呉秀三・樫田五郎の論文「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」が出されてちょうど100年目にあたり、そのプレ企画という位置づけで展示準備を進めることになった。当初は、これまで展示してきたA1サイズの不織布ポスターを転用するつもりだったが、結局、データを渡して博物館のスタッフにパネルを作成してもらうことになった。博物館での展示となると、写真、資料、インタビューでの発言などの著作権確認が厳格となる。これまで使用してきた不織布ポスターに使用している写真などで、その確認が取れないものがボロボロ出てきて、展示内容の一部の変更・入れ替えをせざるを得なくなったのである。

 

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展示の準備作業

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 博物館で展示することのメリットは、当然ながら多くの人に見てもらえるということである。さらに、運営上の立場から言えば、博物館にはスタッフが常駐しているので、「店番」を雇う手間がいらないということもある。過去の展示会では、会場の「店番」アルバイトをさがすか、さもなければ私自身が展示会場で張り付いている必要があった。今回の大阪での開催期間中、私が大阪人権博物館に足を運んだのは、ギャラリートークを行った9月16日と10月7日のみだった。したがって、2日間という短期間の印象に過ぎないが、その時の様子を紹介したい。

 

 ギャラリートークでは、司会をエンパワメントスペース大阪のモリコさんにお願いし、展示会の趣旨説明と、ご自身の展示会に寄せる思いを語ってもらった。私は、会場の大型液晶パネルに映し出したパワーポイント画面を使いながら、私宅監置をめぐる近代日本の精神医療史の概説を行った。


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 そのあと質疑が続いた。予想以上に活発な議論が交わされた。今回の2回のギャラリートークでとくに印象的だったのは、当事者/元当事者からの発言が多かったことである。私宅監置という歴史に触れながら、現在の精神医療と自らの関係についてさまざまな思いが交錯したのではなかろうか。モリコさんの司会ということで、発言しやすい雰囲気が作られていた、ということかもしれない。2回のギャラリートークとも、午後1時半からはじめて3時過ぎまで、熱い時間が続いた(部屋の人口密度が高く、空調の効きが悪くてホントに暑かった、ということもある)。また、あちこちで開催してきたにも関わらず、まめに展示会を訪れてくれる「リピーター」の方々と再会、歓談できたのは嬉しい。

 なお、9月16日には映画の取材があり、撮影クルーがギャラリートークをはじめ展示会場の様子を撮影していった。上で述べた、論文「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」刊行100周年を記念して、呉秀三に関するドキュメンタリー映画の製作中だということである。その予告編が2018年3月3日に東京・有楽町マリオンで開催される「第32回メンタルヘルスの集い」(日本精神衛生会主催)で上映されるようだ。合わせて、同日同会場で「精神病者私宅監置と日本の精神医療史」展が開催されることになっている。展示会開催の連鎖はなおも続くのだろうか。

 

 

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