詫摩(旧姓安田)佳代 首都大学東京(都市教養学部)准教授

経歴:専門は国際政治、国際機構論。東京大学で国際関係論を学ぶ。国際保健協力、国際保健機関の歴史的な展開をアクターの相互作用に着目しつつ、研究している。目下の研究テーマは①グローバルヘルスガバナンスにおける先進国保健外交の役割、②機能的アプローチと国連の専門機関、の二点。主たる業績に、『国際政治のなかの国際保健事業――国際連盟保健機関から世界保健機関、ユニセフ へ』(ミネルヴァ書房、2014 年)、「国際連盟と国際保健事業」(細谷雄一編『グローバル・ガバナンスと日本 歴史のなかの日本政治 4』中央公論新社、2013 年、第 2 章)、「戦間期極東アジアにおける国際衛生事業——テクノクラートによる機能的国際協調の試み」(東京大学国際関係論研究会『国際関係論研究』第 27 号、2008 年)などがある。業績一覧等は以下のページ参照。
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研究の紹介:以下2つの観点から国際医療の歴史を検討する。
① 国内/国際保健の相互作用
20世紀初頭に国際保健協力の枠組みが登場すると、それまで政府の政策のみによって管理されていた人間の健康は、国内/国際保健の相互作用によって管理されることとなった。具体的には、国際保健機関の提供する条約や規制によって、国内保健政策の実施がなんらかの拘束を受けたり、国際保健機関から財政的・技術的支援を受けて国内で特定の政策が実行されたり、あるいは一国の研究機関や企業の生み出した成果が国際保健に還元される場合もある。日本は20世紀初頭に国際連盟保健機関と国際公衆衛生事務局に加盟し、国際保健から伝染病情報の恩恵を得る一方、国内研究機関での研究成果を国際保健に還元してきた。戦後初期は世界保健機関(WHO)とユニセフから技術支援、栄養事業などの支援を受け、近年ではWHOが提供する感染症対策ネットワークの一部を担うとともに、国内の研究機関や企業の成果を国際保健に還元している。本研究はこうした国内/国際保健の相互作用の歴史的な展開を、日本に焦点を当てて、国際保健機関(主にWHO、ユニセフ)のアーカイブ、日本のアーカイブを駆使しつつ、明らかにしていく。
② 国際保健における社会医学の位置付け
19世紀末に国際保健協力が始まって以降、現在に至るまで国際保健政策のアプローチとしては薬の開発、ワクチン接種などに重きを置く疫学的アプローチと栄養や居住空間の改善、衛生インフラの整備など環境に重点を置く社会医学的アプローチの2つが混在し、両者は常に緊張関係にあってきた。国際連盟の時代には栄養事業が国際的に展開され、現在でもタバコの規制など、国際保健における社会医学的アプローチの重要性は広く認識されている。他方で、一般的に国家は、国際保健機関が社会医学的アプローチを実践することには冷ややかな姿勢を示してきた。国際保健機関がより広範な裁量を有することを意味するからである。WHOが設立される際、WHOが広い意味での「健康」に関与することに合意しつつ、医療保険制度を扱うことには各国が強い抵抗を示したことはこのことを顕著に示している。それでもなお、社会医学的アプローチが国際保健において重要な位置付けにあることは変わりなく、2014年西アフリカでエボラ出血熱の大流行は社会医学的アプローチの重要性を改めて国際社会に認識させることとなった。本研究では主にWHOアーカイブに依拠しつつ、国際保健における社会医学の位置付けの変遷を明らかにし、疫学的アプローチとの両立を可能にする糸口を探り出したい。

 

 

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