鈴木 晃仁 東京大学大学院(人文社会系研究科)教授

経歴:東京大学で科学史・科学哲学を、ロンドン大学ウェルカム医学史研究所で医学史を学ぶ。日本とイギリスの精神医療の歴史について多くの業績を出版しているほか、近代日本の感染症と医療についての研究も行っている。主たる業績に、Madness at Home: The Psychiatrist, the Patient and the Family in England 1820-1860 (Berkeley: University of California Press, 2006) and “Measles and the Transformation of the Spatio-Temporal Structure of Modern Japan”, Economic History Review, 62(2009), 828-856 and “Smallpox and the Epidemiological Heritage of Modern Japan: Towards a Total History”, Medical History, 55(2011), 313-318. などがある。現在、東京の私立精神病院の史料に基づいた研究書を準備しており、また、医療の歴史の教科書を執筆している。出版物と業績表などは、Academia.edu のサイトで入手・参照できる。

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研究の紹介:この研究では、精神医療の歴史に関連する主題や史料などが、どのように現代芸術、特に視覚的な芸術によって用いられているのかを検討する。精神疾患や精神医療と芸術の関連は、歴史研究においてはすでに一定の蓄積があり、ファン・ゴッホなどの著名な作家の人生と作品の分析や、20世紀初頭のドイツにおいて世界各地の精神病院の患者の芸術作品をあつめた「プリンツホルン・コレクション」の分析などが著名である。それらの研究が、過去の時代における歴史の枠組みの中で精神疾患・精神医療と芸術の関係を分析したものであるのに対し、この研究はそのような枠組みから一歩踏み出し、歴史と現代を結ぶ視点を構築するために、歴史的な資料が現代芸術によっていかに用いられるのかという主題を研究する。言葉を変えると、歴史研究者が用いてきた過去の資料を素材にした現代の芸術を研究し、医学史研究の現代的な意義を考察することである。より具体的には、過去の精神医療に関連する資料を素材とした作品を発表している作家である飯島由貴に着目し、飯島の作品を展示したギャラリーや、その作品の鑑賞者、医療関係者、患者などにどう考えられているのかということを調査し、精神医療史と現代芸術の関係を論考する。